実はとても怖い、薬剤耐性菌とは!?
近年、抗生物質に頼らない治療が普及しつつあります。
ちょっと前までは、「病気になったらお医者さんに行って、薬をもらえばいい」という考え方が一般的でしたが、ここ最近の研究では、抗生物質の投与自体が問題視されており、医療機関も患者に抗生物質を積極的に進めない流れになっています。
そして、これは政府の方針でもあるのです。
では、どうしてこのような状況になっているのでしょうか?
今回は、「脱・抗生物質」について、一つ一つ解説していきます。
その理由は、抗生物質を飲んでも効かない細菌が増えているから
抗生物質って、すごいよく効きますよね。
病気になって体がツライ時に、抗生物質を飲んだらすぐに体の調子が良くなったという方も多いのではないでしょうか。
薬局では買えないから、抗生物質が欲しくて、病院に行く人もいるようです。
しかし、最近、この抗生物質が効かない細菌が増えているんです。どうしてでしょうか?
原因は、お医者さんの指示に従わない私たちのせい!?
風邪で病院に行って、薬を処方された時、だいたい5日分とか、1週間分とかの薬をもらいますよね。
でも、「2~3日で風邪が治ったので薬が残ってしまった」という経験はありませんか? おそらく多くの方が経験していると思います。
では、抗生物質を処方された時はどうでしたか?
過去に病院で抗生物質を処方された時、お医者さんに言われた日数と回数に正確に従って薬を全部飲みましたでしょうか? せっかく処方してもらった抗生物質を残したままにしていませんでしたか?
また、その後、(数か月後もしくは数年後)に同じように体調が悪くなった時、病院に行くのが面倒になり、過去に飲み切っていなかった抗生物質を取り出して、飲んだ経験はありませんか?
実は、これらの行為は、とても危険で体の中に耐性菌を作ってしまう原因となるんです。
そもそも抗生物質は、風邪やインフルエンザには効かない
抗生物質は、よく効く薬なので、風邪やインフルエンザでつらい症状の時に飲もうと考えたことはありませんか?
実は、その考えは、大きな間違いなのです。
抗生物質は、「細菌」を攻撃するための薬です。
しかし、風邪やインフルエンザは、「細菌」ではなく、「ウイルス」です。ということは、抗生物質を飲んでも、風邪やインフルエンザは治らないのです。
この「細菌」と「ウイルス」を勘違いしている方が多いので、もう少し解説します。
「細菌」は、自分自身で細胞を持ち、細胞分裂をして増殖していきます。黄色ブドウ球菌や、大腸菌、結核菌、などは私たちのカラダを病気にする代表的な細菌です。一方、納豆菌や乳酸菌など、カラダに良い菌も存在します。
「ウイルス」は、「細菌」よりも小さく、自分自身で細胞を持ちません。その為、ヒトの細胞に入って増殖を試みます。インフルエンザや、感染性胃腸炎(ノロウイルス)、デング熱、エボラ出血熱などは、代表的なウイルスです。
大きな違いは、
- 「細菌」は、「ウイルス」よりも、何十倍も大きい
- 「細菌」は、自分で増殖できるが、「ウイルス」はヒトの体内に入らないと増殖できない
という点です。
例えるなら、風呂場に湿気があったら、細菌の一種のカビはどんどん増殖しますが、風呂場にウイルスが存在しても増殖でできません。そんなイメージです。
このように「細菌」と「ウイルス」は構造が違うため、細菌を攻撃する抗生物質を飲んでも、ウイルスには効かないのです。
逆に、ウイルスには、抗ウイルス薬が存在します。タミフルは、抗インフルエンザ薬です。もちろん、タミフルは「細菌」には効きません。
安易な判断で摂取した抗生物質が、耐性菌を誕生させている
では、抗生物質をお医者さんの指示に従わず、自分の判断で勝手に飲むと、どうなるでしょうか?
本来、やっつけなければいけない菌があるのに、抗生物質を決められた日数飲まないと、中途半端に菌にダメージを与え、その後、菌が強じんになって復活する場合があります。(ドラゴンボールのサイヤ人みたいですね)
また、カラダの中には、多くの菌が混在し、バランスを整えています。正常な状態では、体には良い菌が多く存在しています。悪い菌は、少数派です。
抗生物質は、悪い菌だけでなく、様々な菌も攻撃してしまいます。その為、腸内にある良い菌も攻撃して、下痢などの副作用も起こることもあります。
よって、お医者さんの指示に従わず、自分の勝手な判断で抗生物質を飲むと、本来、残すべき良い菌が殺されてしまって、悪い菌だけが生き残る場合があります。
このように中途半端に抗生物質を飲んだり、本当に必要かどうかわからないのに勝手に抗生物質を飲んだりすると、抗生物質に負けない悪い菌がカラダの中で勢力を拡大する現象が起こります。これが、耐性菌が発生です。
耐性菌に感染すると、どうなるの?
では、耐性菌に感染すると、どうなるのでしょうか?
実際、メチシリンに耐性がある黄色ブドウ球菌や、ペニシリンに耐性がある肺炎球菌などの存在は確認されており、これらに感染した場合は、通常使用する抗生物質は効かない為、治療がとても困難になります。
体力のない高齢者や乳幼児が感染すると、治療が長期に渡り、最悪、死に至ることもあります。恐ろしいですよね。
また、治療に伴い、様々な抗生物質を投与することになり、それが新たな耐性菌を誕生させてしまっているという悪循環も起こっています。
また、今は、2人に1人が癌になる時代です。抗がん剤で治療中は、免疫力が低下する為、これらの感染症にかかる可能性は充分あります。薬剤耐性菌問題は、もはや他人事ではないのです。
新薬は開発されないのか?
感染したら死に至る可能性があるなら、耐性菌をやっつける新しい薬剤は開発されないのでしょうか?
実は、抗生物質は、他の薬に比べて、投与期間が短い為、製薬メーカーにとって、儲からない薬なんです。その為、各製薬メーカーは、新しい抗生物質の開発にあまり力を入れていないのです。
中には、抗生物質の開発から撤退している製薬メーカーもあります。
耐性菌の問題って、人の命にかかわることですが、そんなことってあるんですね。大人の事情ってやつですね。
政府の対策はどうなってるの?
政府はこの問題に対して、どう対応しているのでしょうか?
厚生労働省では、2015年に「薬剤耐性(AMR)タスクフォース」を設置し、本格的に対策に力を入れていて、患者だけでなく、家族や関係者にも抗生物質に対する正しい知識の啓蒙・教育を強化しています。
さらに医療機関とも連携し、抗生物質の適正使用の推進に資するガイドライン・マニュアルを整備しています。
2017年には「風邪や下痢の患者に抗生物質の投与を控えるように」という内容のガイドラインをまとめて、全国の医療機関に通達しました。
私たちは、どうすれば良いのか?
では、私たちはこの問題に対して、どう対応すれば良いのでしょうか?
まず、私たちができることは、「予防」です。耐性菌に感染しないように、食事の前など、日頃から手洗いをしっかり行うようにすることが感染予防になります。
細菌は、手に付着し、そこから口や鼻などを経由して体内に入ってくることが殆んどですので、細菌が体の中に入らないように外から持ち込んだ菌はしっかりと洗い流しましょう。
また、万が一細菌が体の中に入っても、しっかりと細菌と戦えるよう、普段から免疫力を高め、強いカラダをつくっておきましょう。
私たちのカラダの器官である腸は最大の免疫器官です。腸内の環境を良くすれば免疫力も高まります。
腸内環境を良くするには、悪玉菌な割合を抑え、善玉菌を増やすことが必要です。それには善玉菌が生きたまま腸に届くようにする。または、もともと住んでいる善玉菌を増やしてあげることが大事になります。
腸内環境を整えるには発酵食品を摂ることがよいと言われています。発酵食品には善玉菌が多く含まれていて腸内環境を良くしてくれる働きがあるので、積極的に取るのが良いでしょう。
また、食物繊維には腸内の有害物質を減らしたり、善玉菌のエサとなり腸内の善玉菌を増やしてくれます。食物繊維が多く含まれる食品を摂るのも良いですね。
発酵食品で善玉菌を摂ることと同時に食物繊維を摂るようにするとさらに効果的です。そういった意味では、食物繊維を多く含む発酵食品を摂ることが理想的といえますね。
薬剤耐性菌の問題において有効な対策が講じられなければ、2050年には全世界で年間1000万人の耐性菌による死亡が推定されています。
これからの時代は安易に薬に頼らないような流れになってきています。
私たちは薬のお世話にならないように、日頃から食生活などでしっかりと健康管理をし、自分で自分のカラダを守っていきましょう。